今週のお題「マイ・ミュージック」


「ボンボンボンボボボーボン」というベースラインが響いた。
「何だよこのベースライン‥」
とジョンは呟いた。自分のベースラインのあまりの単純さに嫌気が差したのだ。
「お前のベースはどうでもいいから、ここから出してくれよ」
とデヴィッドは言った。
彼らのバンドは、某有名ミュージシャンであるデヴィッドを監禁し、無理やり共作しようとしていたのだ。
「あなたの名前がクレジットに載るだけで、俺たちは一躍スターダムにのしあがるんですよ」
とドラムのロジャーは言った。
「ああ、悪いが諦めてくれ。俺は、早く窓から自宅のプールにTVを投げ飛ばしたくてしょうがないんだ」
と言ったのはギターのブライアンだった。
「そんなことを言って、もう三ヶ月もここに監禁しっぱなしじゃないか」
とデヴィッドは怒りながら言った。
「しょうがないだろう‥あいつ、あいつが来るまで俺たちはほぼ何も出来ないんだからな」
ジョンはそう言って、またベースを弾いた。彼はこの三ヶ月間、このベースラインしか思いつかなかったのだ。
「もうそのベースラインにはうんざりだ!」デヴィッドは怒り狂いながら鉄格子をけっとばした。
その時、スタジオのドアが急に開き、得意の高音で、「イドアベ!イドバババ!」
と叫びながら、相撲取り六人を肩に乗せたフレディが向こうから突っ走ってきた。
「やっと来たか‥」
ブライアンはそう言ってギターを肩にかけた。「全く。どこをほっつき歩いてたんだ?」とロジャーは訪ねたが、フレディは完全にそれを無視して、相撲取りを肩から降ろした。そうして、フレディはしばらく相撲取りの一人を見つめていた。それから突然彼はその相撲取りにキスしようとした。相撲取りはそれを受け入れた。「ごっつぁんです」とキスが終わった後に相撲取りは言った。こうして五人の相撲取りが「ごっつぁんです」という事になったのだった。フレディは残る一人の相撲取りにキスしようとした。だが最後の相撲取りはそれを拒み、彼に突っ張りをぶちかました。「イドアベ!」と言ってフレディはふっとんだ。すると、五人の相撲取りも、フレディに一発ずつツッパリを喰らわせたはじめた。「東洋の神秘だな」とブライアンは呟いた。相撲取り六人は無表情のままフレディの上に乗っかり始めた。
「何故僕たちはお互いに愛せないのだ‥」と重圧に押しつぶされ、突然テンションが下がったフレディは泣きながら呟いた。ふと彼は、監獄の格子越しに、デヴィッドの姿を発見した。二人は目が合った。
「愛なんて、時代遅れの言葉だからさ」デヴィッドはそう言った。