今週のお題「マイ・ミュージック」


「なにもこんな所で刀鍛冶を始めないでも‥」
そう言ったのはドラムのボンゴレ.jrだった。アレンが、あまりの熱演にヒートアップし、ついつい家業である刀鍛冶を始めてしまったのだ。
「アチッ」そう言って身をかわしたのはボーカルの横浜マッキンレーだった。「うわ、よく熱されてる」と赤くなった鋼を見ながらベースのジョーイ”県民”マグワイアは呟いた。
「落ち着けよ、アレン。客がドン引きしてるぜ」と横浜マッキンレーは諭すように行ったが、アレンの耳には入っていなかった。
「勝つんや、正宗の刀にわいは勝つんや‥」
そう言ってアレンはひたすら刀を打ち続けた。メンバーたちはしばらく呆然としてその様子を眺めていたが、ふと、ボンゴレ.jrの身体にそのリズムが入ってきたのだった。
「何だこのビートは‥」
ボンゴレ.jrは彼の刀を打つリズムに合わせてドラムを叩き始めた。続けてジョーイが、ベースを弾き始めた。それは魂の底を揺さぶるような振動となって、観客を襲った。
「ロックの新しい伝説が始まった」と誰もが感じた。
だが、ボーカルの横浜マッキンレーは即興演奏が苦手だった。もともと上がり症なのだ。「君の‥君の赤い唇ラララ〜」それが全てを台無しにした。観客はブーイングを始め、ハンバーガーやコーラが彼めがけて飛んできた。横浜マッキンレーは泣きべそをかきながらその場にしゃがみこんだという。「A HA HA,Ever get the feeling you've been cheated」と彼は不貞腐れながら言った。
だがそんなマッキンレーを無視して、刀鍛冶にあわせた演奏は続いていった。「今夜俺たちは伝説になったんだ‥」とボンゴレ.jrが言った。「ああ、そうだな」とジョーイは答えた。アレンはひたすら刀を打ち続けていた。
こうして出来たのが名刀「馬場王怜悧」である。


Henry Diltz
"The Who " 1967