Inventionのための23のVarietions

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「エレベーターが六階に止まったり止まらなかったりィィィィ!!!」
いつかエレベーターが降りる用と昇る用に分けられる日が来るのではないか、そんな予感に慄く甲斐さんは、六階に止まったり止まらなかったりするエレベーターに乗って安心するのだった。
「まだ分けられていない、まだ分けられていない」
そう独り言を呟いて自分を安心させる甲斐さん。
「エレベーターがエスカレーターの様になったらどうしよう」
「エレベーターエスカレーター化計画」がどこかで進んでいるのではないか、そんな疑いが彼の頭からは片時も離れない。
「エレベーターはエスカレーターじゃない、だから大丈夫ですよ」という精神科医の言葉も耳を素通りし、日増しに不安は高まっていくばかりなのだ。
「私にだけわかっている事実なのだ。政府はこの計画をひた隠しにしている」
というのが彼の持論だった。
彼は政府に対する異議申し立てとして、エスカレーターに、客が昇り降りを自由に変えられるよう細工した。
世界中が大パニックに陥り、これは人間にエスカレーターが牙を向き始めたのではないか、といぶかしむ向きもあったが、犯人として甲斐さんが逮捕されたため、騒ぎはすぐに静まったという。
彼はテロの容疑で死刑に処せられることになった。彼の最後の言葉は、「甲斐は死んでも階は死なない」だったという。