エイドリアン・パイパーAdrian Piper「モダニズムの論理」THE LOGIC OF MODERNISM(1)

 西洋美術*1における、四つの特性がある。それらは、モダニズムの展開(とりわけ、ここ数十年のアメリカ現代美術の展開)を理解するための、中心に位置している。
1 「特色」の占有(appropriative character)
2 形式主義
3 自己認識
4 社会へのコミットメント
 この四つの特性(これらはお互いに関連している)は、強力なコンセプトと、戦略的な連続性を、西洋美術の歴史−特にモダニズムの−と、明白な政治性を持つ最近のアメリカ美術の展開との間に、付与している。この連続性に関していうと、奇妙にも、アメリカの様々なモダニズムでは、「グリーンバーグのフォーマリズムはまともではない」ものとして知られているのだ。
 一般的には、「内容の否認」(特に、明白な政治性をもつ主題の否認)によって特徴的なグリーンバーグのフォーマリズムが影響力を得たのは、マッカーシーの検閲、五十年代の赤狩りへの恐怖からの、日和見的、イデオロギー的な逃避としてだった。
 その限りでは、世界的な美術のコンテクストでは優勢だった「政治的な主題」への、このイデオロギー的な否認は、アメリカの帝国主義が、「催眠薬、鎮痛剤としての芸術」という、独自に「調合」したその概念によって、ヨーロッパの、長年にわたる「社会変革のためのメディウムとしての芸術」という伝統を奪うことを、成功させたのだ。
 西洋美術の「特色の占有」とは、つまりは、非西洋文化圏の美術から、インスピレーションを得るために、「盗み出す=引き抜く(draw)」ことである。このことの起源は、再活性化のために、過ぎ去った遠い文化−ヘレニズム期のギリシャ−の異邦人の芸術を「引き抜いて」いる、初期ルネサンスにあるかもしれない。このため、ルネサンスの真の教訓とは、遠近法の再発見ではなく、むしろインスピレーションのもととしての、差異の発見にあるのだ。
 西洋の、領有(appropriate)への欲望の、その初期の実例には、ドゥッチョとチマブーエの絵画における、ビザンティンの宗教芸術の影響が含まれる。イスラム美術とヒンドゥー美術は、ジョットとフラ・アンジェリコの芸術に影響している。より近い時代では、ゴッホにとっての日本美術、ゴーギャンにとってのタヒチ美術、ピカソにとってのアフリカ美術。また、もっと最近では、スチュアート・デイヴィスとモンドリアンにとっての黒人*2のジャズ、キース・へリングとデヴィッド・ヴァイナロヴィッチにとっての、黒人のグラフィティ・アート。
 植民地化された非西洋文化に依存している社会では、それは当然のことだ。労働‥天然資源の獲得は、労働でなければならない。美意識と文化的な資源も、また同じく。けれどもその行為は、後者の場合、必ずしも搾取(あるいは帝国主義的)であるとは限らない。それは、社会的に規定された西欧的自我の範囲内で「自己超越」することへの、代わりに成り得る行為かもしれないのだ。懸命な努力によって、謎めいた「他者」の固有言語を組み込むこと。ここでの領有の目的は、他者の美的言語を、故意に搾取することではないだろう。


訳者後記:appropriative characterを、どう訳していいかわかりませんでした‥

*1:*1原文ではEuroethnic art

*2:*2原文ではAfrican American