今週のお題「2010夏のふりかえり」

さて夏の中でもすぐれた美しい聖ヨハネ祭に、そのおばあさんが畑と牧場とを見わたしていますと、ひょっくり鳩が歌い始めました。声も美しくエス・キリスト、さては天国の歓喜をほめたたえて、重荷に苦しむものや、浮き世のつらさの限りをなめたものは、残らず来いとよび立てました。
 おばあさんはそれを聞きましたが、その日はこの世も天国ほどに美しくって、これ以上のものをほしいとも思いませんでしたから、礼を言って断わってしまいました。
 鳩は、ちょっぴり残念そうに、首を下に傾けましたが、すぐに羽をはためかせ、飛び立っていきました。
 次に鳩が訪れたのは、日の光をいっぱいに浴びながらお酒を飲んでいる、おじさんの家でした。鳩はおじさんの家の、庭に生えている松の木に止まり、さっきと同じ様に、天国の歓喜を歌いました。
 「おい、おかあさん、鳩が何か言ってる」と、おじさんは、奥さんを呼びました。
 「だからこれ以上呑むのは止めた方がいいっていったのに」と奥さんは迷惑そうな顔をして、台所から出てきました。
 「あら、本当に何か言ってるわ」と、奥さんは驚いて鳩を見つめました。鳩は、二人に、天国の祝福と、歓喜を、鳩らしく歌いました。
 おじさんは、鳩が歌い終わると「天国か、行ってみたいもんだながははは」と笑いました。その後、おじさんが急に黙ったので、奥さんが「あなた、どうしたの」と言って肩に手を置きました。おじさんの体はゆっくりと崩れ落ち、奥さんがどんなに体を揺すっても、二度と、目を覚ましませんでした。