今週のお題「出会いと別れ」

 『キットカット』は、別名「キットカット・ミサイル」とも呼ばれる軍事兵器である。このミサイルは使用すると50%の確率で地球を切断し、半分にするといわれている。「切れるか切れないか、そのスリルが味わいたい」と大統領は日々このミサイルの発射スイッチを押す誘惑に駆られているが、側近が常にそれを止めるため、何とか地球の平和は保たれているのだ。
 ある日、側近がトイレに行っている間に、耐えられなくなった大統領はぽちっとスイッチを押してしまった。「ミサイルが準備されました。24時間後に、地球は切断されるかしないかでしょう」と「キットカット・ミサイル」をコントロールしているコンピューターは合成音声でそういった。
 大統領は自分の妻を呼び出した。「実は俺、例のやつ作動させちゃったんだ」と大統領は頭をボリボリ掻きながら言った。「しょうがない人ね、あなたはいつかやる男だと思ってたわ」と妻は微笑んだ。しばらくして、「こうして二人でホワイトハウスにいると、思い出さないかい、君と初めてワシントンD.Cに社会科見学で来た日のことを」と大統領は言った。「ええ、それが私と貴方の初めての出会いでしたね」と妻は返した。
「ここで君と別れることになるかもしれないし、ならないかもしれない‥」
「そうね、切れるかもしれないし、切れないかもしれないわね」
「そう、全ては神の御手にゆだねられた、ゴッド・ブレス・ユー」
「ゴッド・ブレス・ユー」
 そんな事を言っている二人を尻目に、周りは大騒ぎしていた。「何と言うことだ!」「国防総省の迎撃ミサイルで、あれを撃ち落せないか?」「不可能です」「何と言うことだ!」「あっ、国防総省の迎撃ミサイルで、あれを撃ち落せないか?」「不可能です」「何と言うことだ!」とすっかりパニック状態に陥った側近たちは、仕方なく家族のもとに帰った。せめて今日一日は愛する家族とともに過ごしたい―それが彼らにできる唯一の事だったのだ。
 こうしてカウントダウンが始まり、とうとうそれは1から0になった。
しばらく沈黙が続いた。だが、何も起こった気配はない。
「やった!我々は賭けに勝ったんだ!」と大統領は喜んだ。
「いや、そうじゃない」と突然ホワイトハウスにロスアラモス研究所の博士が現れた。
「全てはフェイクなのだよ」と彼は言った。
「はじめからあのミサイルに地球を切断する機能などついていない‥。大統領はいつか押すだろう事を最初から計算して作られた我々科学者からの警告なのだ」と博士は続けた。
「どうだね、大統領。そして政府関係者諸君。これで愛する者が消えていくかもしれない悲しさが貴方にもわかったでしょう?」
大統領はパチンと指を鳴らした。
途端に柱の影からCIAの連中が出てきて、博士をどこかに連れ去っていった。
こうして地球は救われたが、地球を愛した一人の博士は、地上から別れることになったのだ。