今週のお題「出会いと別れ」

和尚がお経をよみに行った帰り道で虎に出会った。肝をつぶして、鐃鉢(にょうはち)の一片をとって虎を打つと、虎はそれを呑みこんで進み寄る。また一片をとって打つと、これまた同様にしていよいよ近寄ってくる。とうとう和尚がお経文をとって虎に投げつけると、虎はあわてて穴に帰った。穴の中の虎に「どうしたんだ」ときかれて、
「さっき和尚に出会ったが、実に怪しからん野郎だった。薄いサクサクするのを二きれご馳走してくれたのはよいが、すぐそのあと勘定書をつきつけやがるじゃないか。逃げないわけには行かなかったよ」
(「笑府」上巻、岩波文庫P167)

 虎が人を喰った帰り道で夫婦怪獣「オシドラー」と出会った。肝をつぶして、とりあえずまわりをうろうろすると、オシドラーは子どもを産みながら進み寄る。またうろうろすると、これまた同様にしていよいよ近寄ってくる。
虎まであと三歩ほどの距離になったとき、オシドラーの妻の方が突然口を開いた。
「あなた、浮気していませんか?」
唐突にそう訪ねられた夫の方はびっくりし、「べべべ別に、そんなことは」とどもりがちになって言った。
「それなら、夜な夜な私と分離してどこに行っているんですか?」
と妻の方は更に聞いてきた。気がついていたのか、という顔に夫の方は一瞬なったが、すぐに
「いや、取引先に呼び出されたのだよ」と弁解した。
「その取引先では何を取り引きしているんですか?」と妻は聞いてきた。
「なにをってお前、それは仕事上の契約とかそんな感じのものだよ」
「じゃあこの、薄いサクサクするのは何ですか?」と妻は言って、薄いサクサクするのを取り出した。
「そ、それは‥営業の接待先でもらったものだ」と夫は冷や汗をかきながら言った。
「こんなに薄くて、しかもサクサクしてるなんて‥」と妻はうつむきながら呟いた。
「もういいです、あなたとは分かれさせていただきます」
妻の方は夫と分離し始めた。
「まて、それじゃあこの子供たちは誰が責任を取ることになる」
「知りません。さようなら」
そう言って完全に分離した妻の方はどこかに去っていった。
ただの夫になった夫の方は、ふと虎の存在に気づき、恐れをなして妻と反対方向に逃げ去っていった。
虎はしばらく呆然としていたが、オシドラーの生んだ子供たちを口にくわえて、自分の穴に持っていった。