今週のお題「七夕の願い事」

「駄目だ!この日に限ってはベガがどうしても織姫に見えてしまう!」と叫んだのは天文学者のおじさんだった。「あれはベガ、あれはベガ」と呟きながらおじさんはその星を見た。「あれはベ‥くっそー!」と言っておじさんは望遠鏡を窓から放り投げた。「それならアルタイルの方はどうだい?」とおじさんの背後からぼくのパパは言った。「‥アルタイル、あれはアルタイル」おじさんはぶつぶつ呟いたが、すぐに首を振った。「織姫と彦星め‥なにが天の川だ。大体天の川とは天の川星団‥地球もそれに属しているところの星団なんだよ」それを聞いたパパが僕の耳に口を近づけ、「今のはどうせウィキペディアで知った知識だよ」と言った。
「一年に一回しか会えないとかざまあ」と書いた短冊をおじさんは吊るした。
「だが、こうも考えられないでしょうか」と僕は口を挟んだ。「人間的には一年に一回しか会えない事はとても少ないことです‥だが宇宙的な時間感覚からすればむしろどうということないのではないでしょうか。一億年としたら一億回会えるのですから」「それはそうだな‥」とおじさんは言った。「一年に一回、アルタイルが彦星化するのを食い止められればそれでいいのだが‥そのためにはやはり七夕になくなってもらうしかないな」
ぼくはそんなおじさんに気を使い、「七夕がなくなりますように」と書いた短冊を吊るしたのだった。