今週のお題「都会 or 田舎?」

プリウス」は次のオリンピックから正式種目として加えられることになったスポーツである。このスポーツは、まず喫茶店でだべることから始めなければならない。レフェリーはこの時席に座ってはならず、立って二人の競技者の会話を見守る。二人の競技者はレフェリーの容貌のみから彼が好きそうな話題を洞察し、お互いに会話しなければならない。つまり先にレフェリーの好みの話題を見出し、会話のイニシアチブを握った者が有利な位置に立つのだ。だがこの時注意しなければならないのは、好みの話題であるだけにレフェリーの信念と正反対の事を喋ると、えらいマイナスの点をつけられる、ということである。例えば野球ファンのレフェリーで、その事を洞察したにも関わらず競技者が阪神タイガースの批判をした場合、レフェリーが阪神ファンであったときには取り返しがつかない事態になる。レフェリーによっては退場を宣告され、喫茶店からでていかなければならない破目になるのだ。
レフェリーがふんふん、と言った感じで、微妙に笑顔になりながら頷いている時は大体好みの話題なので、その顔色を伺いながら会話をする。結局のところ、第一ステージの喫茶店では、あまり過激な意見を言わず、適当にお茶を濁していれば何とかなるのである。
だが、「プリウス」は喫茶店を出た後が本番なのだ。喫茶店から出て、それぞれが家路に変える道中で、新たなレフェリーがでてくる。この時、競技者一人にレフェリーがそれぞれつく。競技者は家に帰るまで、レフェリーと一対一で向かい合い、今度は彼が嫌いな話題を探り出し、延々と話さなければならない。レフェリーは勿論何も答えず、しかめっ面をしたり、すごい形相で睨んだりするのみである。この時どれだけ不快な話が出来たかによって得点がカウントされ、勝者が決まるのである。電車の中とかで睨みつけてくるレフェリーに、一人で喋り続けなければならないという過酷なスポーツなのだ(あ、言い忘れていたが、競技者は田舎に住んでいなければならず、喫茶店はなるべく都心で無ければならない、というルールがある。つまり、都会の喫茶店から、田舎にある自宅まで帰るには長時間かかり、この間レフェリーと一緒にいなければならないのである。これはスポーツとしてより厳しくするため、1982年に新しく追加されたルールである)。
こうして、試合が終わる頃には競技者はへろへろになり、家の玄関に張られてある白いゴールテープを切った瞬間に倒れこむという。