今週のお題「都会 or 田舎?」

落ち武者たちの子孫が、落ち武者震いをしはじめた。彼ら全国に散らばっている子孫たちは、午前0時ジャストの時間に一斉に落ち武者震いをはじめ、その震動で地殻に影響を及ぼし、都市部の断層をずらすことで都会に地震を発生させようとしているのだ。自分の心の中で恐怖を感じるシチュエーションを思い描き、口を半開きにしたまま震えつづける、それが彼らに伝わる正統な落ち武者震いのやり方だった。
「晴彦、どうしたの?」と晴彦の彼女はうろたえていった。晴彦が急に口を半開きにし、震え始めたからだ。「都から追放されたそれがしの恨みを今こそ晴らすのだ」と晴彦は口からよだれをたらしながら言った。晴彦の後ろには先祖の霊が浮かび上がって見えた。こうして全国の落ち武者の子孫たちが先祖の霊とともに落ち武者震いを続けた。だが、かなり長い間震えているにも関わらず、地震はなかなか起こらなかった。
「なぜだ‥」と晴彦は呟いた。ふと横を見ると、彼女が口を半開きにして震えていた。彼女の背後には勝ち武者の霊が見えた。彼女は勝ち武者の子孫だったのだ。「我々の都をお前らの好きにさせてなるものか」と彼女は言った。勝ち武者の子孫たちは「武者震い」で落ち武者震いと逆の周波数の振動を起こすことにより、落ち武者震いを無化していたのだ。「奪われた者と持っている者、どっちの執念が強いか、見せてやろう」と晴彦は叫んだ。
だが、それぞれの武者たちの子孫があまりにも長い間震動を放ち続けたため、日本列島がそれに耐え切れず、壊れ始めた。ありとあらゆる場所に亀裂が走り、沈下していったのだ。富士山などは二つに裂けて、片方だけがゆっくりと沈んでいったという。
彼らはそんな状況にも関わらず、震え続けていた。彼らは最早都のことなどどうでもよく、どっちの震えが勝つかが全てになっていたのだ。
こうして彼らは震えたまま海に沈んでいった。骸骨となった今でも、落ち武者の子孫と勝ち武者の子孫は、深海の底で震え続けているという。