「アフリカに行く気かい？」と男は聞いた。
「じゃなかったの？もう忘れちゃった？今日のあれやこれやは、その話だったんでしょう。二人してアフリカでもどこでも行くという。アフリカに行くんじゃなったの？」
「それならはっきり言えばいいのに」
「余計な口出ししたくなかったのよ。あなたの行きたいところならどこでもって、私は言ったし、実際どこでも行くわ。でも、私、あなたがてっきりアフリカに行きたいんだと思ってた」
「まだ季節が早過ぎるよ。今は大雨の頃だし、雨が終わると草ぼうぼうになって、しかも寒い」
「じゃどこに行くの？」
「スペインもいいが、セビリヤは手遅れだし、マドリードのサン・イシドーロの祭りももう遅い。それでいて早過ぎるんだ。バスク海岸がそうで、まだ雨季で寒い。どこに行っても雨だよ、今のスペインは」
「イタリアはどうかしら？」
「あそこなら雨はないが、海で泳ぐにはしばらく待たなければならないだろうね。カリアリのサンテフィジオ祭には何とか行けるかもしれないが、その後が退屈かもしれない」
「じゃ日本は？」
「日本は悪くないな。丁度雨が多くもなく、そこまで暑くもない時期だ。京都に行けば、美しい寺院もいっぱいあるが‥。でも、君はそんなものには興味ないだろう？」
「ないわ」
「それに日本だとまだまだこの季節は海には入れない」
「じゃどこに行けばいいのかしら」
「去年行ったアメリカでは君が入国審査の時に面倒なことになったし、まあ、あれはフランス人のせいだったが」
「その話はよしましょうよ」
「ああ、悪かった。しかし、この時期だと、どこもいい場所がないね。」
「でも、どこかには行きたいわ」
「アジア、ヨーロッパ、中近東、南米‥。考えてみると、どこもそんなによくないな」
「もう、どこでゴールデンウィークを過ごしたらいいのかしら」
「家の中で『ゴールデンウィークの過ごし方』をずっと考えているっていうのはどうだい？」
「それなら、アフリカに行ったほうがましだわ」
