パラレルお爺ちゃん

パラレルお爺ちゃんがこちらに向かってパラレルに歩いてきた。六人同時進行である。このお爺ちゃんは、「平行世界にいる自分を六人同時に一つの世界に現すことができる」能力を持った謎のおじいちゃんで、近所では有名だった。
パラレルお爺ちゃんは六人横一列でないと行動できないので、端っこのお爺ちゃん等は車に注意しなければならない。危なくなると左右どちらかに向き直る。そしてカニ歩き的な状態で歩行すれば問題はないのだ。こうやってお爺ちゃんは家から出るときなどこうしてドアでつっかえることなく外に出るのだった。
このお爺ちゃんの対抗勢力は、「シリアルお婆ちゃん」だった。シリアルお婆ちゃんは通し番号が付いたお婆ちゃんたちで、こちらは六人のお婆ちゃんが垂直に連なり、すなわち肩車をした状態で歩いてくる。だがよく観察すると上に行くほどより年齢を重ねていくように見える。「時間的に異なる垂直世界にいる自分を六人同時に一つの世界に現すことができる」能力なのだ。こちらは家を出るときに跪いた格好で、六人がずるずるとでなければならない。それを見たパラレルお爺ちゃんは、「無様だな」と六人同時に鼻で笑ったのだった。
その事が頭にきたお婆ちゃんは、パラレルお爺ちゃんと、とうとう抗争を始めた。シリアルお婆ちゃんは一斉にパラレルお爺ちゃんに突っ込んだ。パラレルお爺ちゃんの内の一人が吹き飛んだ。というか原理的に一人しか吹き飛ばすことはできなかった。だがおじいちゃんを吹き飛ばした反動で一番下のお婆ちゃんもバランスを崩し、地に崩れ落ちた。「平行世界と垂直世界のバランスが崩れてしまう!」と叫んだのは増田博士だった。
一つの世界の中で平行世界と垂直世界が交わった瞬間、全てのものが斜めに傾いて、無限に増殖していった。慌てたお爺ちゃんとお婆ちゃんは、すぐに元に戻ろうとした。だが慌てすぎていたためお婆ちゃんは平行に、お爺ちゃんは垂直に並んでしまった。この事により時間軸は平行化し、空間軸は垂直化した。これがある意味マイナスの作用を与え、なんか世界は元に戻ったのだった。だが、もしかしたら元の世界とどこか違うかもしれない―増田博士はそう考えたが、どうがんばってもどこがどう変わったのか、さっぱりわからなかったという。