おばあちゃんは歯をむき出しにして笑った

「いひひひひひ」
おばあちゃんは歯をむき出しにして笑った。皺がものすごい勢いで顔に走る。
「また発明品を思いついたのかい、おばあちゃん」
パパはガウン姿で、猫を撫でながら言った。
「ああ、そうだとも。いひひひひひ」  
おばあちゃんはぐつぐつ緑色に煮えた鍋に電卓、CD-R、息子の嫁の写真、スパイダーマンのフィギュアなどをぶちこんだ。
「これで最後にわたしの眉毛と糖類(加糖ブドウ糖液糖)をいれれば発明品は完成じゃ」
僕はすさまじい異臭と煙で、目が痛くなり、咳き込んだ。
「まあ、またお義母さん発明してるの?」
買い物から帰ってきた母は、玄関まで漂っている異臭を嗅ぎ、不機嫌な口調になった。
「発明は月に一回までって決めたじゃない!今月でもう三度目よ!」
「まあまあ、いいじゃないか。おばあちゃんはな、トイレで転んだ拍子にタイム・マシーンの構造を思いついたらしい」
「あなたはいつも母親には優しいのね。私のことなんてほんとには考えてないみたい」
「馬鹿いいなさんな、毎晩毎晩、エブリデイ頑張ってるじゃないか」
「それは私のことを考えているかどうかと無関係です。それなら母親より私のことを大事にできますか?」
「い、いや、それはつまりアレだ。そんなことをいわれても答えられないだろう」
「どうして?」
「どうしてっていわれたっておまえ…」
「やっぱりあなたはマザコンなんですね」
「…」
「もう私は決心しました。この子を連れて離婚させてください」
「なんだと?落ち着け高野、いや旧姓中野洋子よ、それは母親を連れておまえと結婚した私に対するアンチテーゼか」
「なんでもいいです。私はもう疲れました」
母は僕の手を無理やりひっぱった。
「イタイ、痛いよママ!」
と僕は言った。
「人は痛みに耐えて大人になるのよ」
と母は言った。
「できたのじゃあー」
おばあちゃんは叫んだ。
タイム・マシーンは鍋型で、ものすごくちっちゃかった。
「世界初の鍋型タイムマシーンじゃー」
「まってくれ、旧姓中野洋子!」
「さあ早く行きましょ」
と母は僕の手をさらに強く引っ張った。
「この鍋で時間をグツグツ煮ることによって、量子場の時空変換を1.21ジゴワットの力で
超時間的構造変換を行うのだ」
おばあちゃんは時間をグツグツ煮始めた。途端に鍋が爆発した。
「な、なぜじゃあー」
おばあちゃんは真っ黒になりながら叫んだ。口にはんぺんをくわえていた。
「ホホホホホホホホホ亦亦赤赤赤」母はたからかに笑った。
「実はお義母さんの発明用鍋には最初からだし汁をいれておいたのよ。昆布のね」
「なんじゃと?」
「なにを作ってもおでん用の鍋になるようにね。おほほほほほほっほおほ」
「この泥棒猫め!」
「おっほほほほほほっほ、さあいきましょう」
母は僕の手を引っ張った。
「待て!…また昔みたいに、おでんをみんなで囲もうじゃないか」
父は言った。
「昔みたいに…」
「そうだ」
(回想「あら、このちくわぶちょっと細いわね」「なに、今夜これよりもっと太いちくわぶを食べさせてやるさ」「まあやだパパったら」「ははは」「ははは・・・」)
「…そうね、今日はおでんにしようかしら」
「人はタイムマシーンを使わずとも過去に戻れる。これこそ、今日の我が発明なのじゃ!」
おばあちゃんははんぺんを食べながら、言った。