実際に昔見た幻覚のはなし


目が覚めると、いつも窓にかかっている、青と白のチェック柄のカーテン(ベッドに寝ると正面からそれが見える)から、縦長の紙がこちらに向かって浮かび上がってきた。いや、紙という言い方は適切では無いかもしれない、それは半透明であり、非物質的な、あまりにも完全な「平面」だった。私は身体を横たえたまま、その「紙」(便宜上この言葉を使わさせて頂きたい)を見ていた。すると、その後ろから、まったく同じ紙が浮かび上がってきた。ある一定のリズムに基づいて次々と紙はカーテンから現れてくる。最初に浮かんできた紙は、カーテンから約60cm位の距離に達すると、そのまま空中で停止した。この紙の上半分にはレオナルド・ダヴィンチが描いた様な、奇妙な機械の図面が四角い枠の中に書き込まれていて、下には筆記体の、よく判読できない文字(これもまたダヴィンチの書く文字のようだった)が記されていた。私が注視していると、図面に描かれていた機械のプロペラがゆっくりと回りだした。すると紙自体も徐々に上がっていく。図面のプロペラの回転速度が増していくにつれ、紙の上昇する速度も上がり、やがて天井にふわりと吸い込まれて、消えた。次の紙も同じ様に天井に消えていった。その次の紙も。


何故このようなものを幻視してしまったのかはよくわからない。目覚める前に私が見ていた夢ともたいして関係なかったような気がする。私が幻覚を見たのはこれだけである。(と一応言っておく)