Inventionのための23のVarietions

20


節分の日に、豆をなげつけた相手が、本当の鬼だった。鬼はすでに父を食い殺し、鬼のお面をつけてあたかも父であるかのように僕らを騙したのだ。
「鬼を甘く見ていたようだな、人間ども」
鬼はつけていた面をゆっくりと外しながら、そう言った。
「さあ、本当に鬼は外にでていくかどうか、その豆を投げつけてみるがいい」
僕らは何度も何度も、鬼に豆を投げつけた。泣きながら。
鬼は薄笑いを浮かべながら、こちらに向かってきた。
弟の頭を鷲摑みにし、そのまま口まで運ぶ。鬼の顎の上で、弟の腕がぷらぷらとゆれている。鬼はそれを噛み千切った。畳に弟の右手が落ちた。
「ふ、福は内、福は内」
と腰が抜けたままの母は一点を凝視しながら壁に豆を投げつけていた。
鬼は母の首をもち、ゆっくりと口の中に入れた。
畳が赤一色に染まった。
「前から気になっていたんだが」
鬼は最後に残った僕に喋る。
「福は内、といって豆を投げつけるとき、あれはなにがしたいんだ?百歩譲って鬼ならわかる。対象があるからな。しかし福というものは存在しない。しかもそれに豆を投げつける、ということは福を追い出しているんじゃないか?」
僕は何もいえなかった。
「そんなことをしてるから、俺が来たのかもしれないな」
鬼は僕の頭をつかんで、口にもっていった。
そのとき僕は、鬼にものどちんこはある、ということに気がついたのだ。