Inventionのための23のVarietions

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彼のリストカットはすごかった。あまりのすごさに人々は彼を「リストカット界の切り裂きジャック」と呼ぶようになるほどだった。
「だめだだめだ!そんなことじゃ一流のリストカッターにはなれないぞ!」
彼のひらいた「リストカット教室」にはたくさんの生徒たちが毎日リストカッターを目指して汗を流すのだった。
サンドバッグをカッターひとつでずたずたにする、鏡の前でのシャドウリストカットなど、厳しい訓練に文句も言わずひたすら練習に励むリストカッターの卵たち。
教室の床に滲んだ血のあとがその過酷さを物語っていた。
日本人のリストカッター代表として彼は黒人の世界チャンピオンに挑んだ。まずリストカットの基本的な攻撃として血しぶきでの目くらましがある。これは先にきまったほうに点数が入る。あとは切るときの手の裁きの美しさを審査員が判定する。
彼のスタイルは徹底的に切りまくり、かつ裁きの美しさをも保つという、きわめて自虐的なものだった。このスタイルを確立したことによって彼は日本において他者の追随を一切許さなかったのだ。
世界チャンピオンは血の量がやたらと多かったので、普通の人間にはとてもまねできない切り方がもともと可能だった。
体格で劣る日本人が、そんなチャンピオンに勝つには死をも覚悟してのリストカットしかなかった。
セコンドはそんな彼を見て涙を流した。
「切れ・・・切るんだジャック!」
勝敗が決したと同時に彼は真っ白になり、燃え尽きた。
彼は永遠の世界チャンピオンになったのだ‥‥