アルトー

私がこの世に生まれてきた人間の中で最も尊敬する、アントナン・アルトーの「ヴァン・ゴッホ」より。
ここにあるのは、「世界」の根底的な残酷さに、生涯その身体まるごと晒し続けた者にしか獲得できない、奇跡的なまでの強度、パッションだ。

燃えあがり、
降り注ぎ、
炸裂する、
狂ったあわれなヴァン・ゴッホが、生涯その首にぶらさげていたあの石臼の復讐だ。
理由も行先もわからずにただ描くという石臼の。
なぜなら、この世界のためではないのだ、
けっしてこの地上のためではないのだ、
われわれすべてが、こうして絶えず働いてきたのは、
あらそってきたのは、
恐怖や貧困や飢えや憎しみやスキャンダルや嫌悪に悲鳴をあげてきたのは、
たとえみんながそれらにうっとりしたとしても、
結局みな毒を飲まされてしまったのは、
そしてついに、自殺してしまったのは。
なぜなら、われわれはみな、哀れなヴァン・ゴッホ同様、社会による自殺者ではないか!

粟津則雄訳、ちくま学芸文庫。この訳は名訳だと思う。鈴木創士による翻訳も最近出た(「神の裁きと決別するために」宇野邦一、鈴木創士訳)が、そっちはひどい。