「私、服屋でうろうろしていて、人にぶつかったんです。それで「あ、すみません」って謝ったら、それが鏡に映った自分の姿だったことがあるんですよ」
と、そう言うことで天然ボケな自分を演出してみせたボクだったが、ふと気がつくと話しかけていたのは友達ではなく、鏡に映った自分自身の姿だった。だが、それを気にすることなく、僕は話した。
「『なんかこの人、よけないなあ』とは思ったんですよね。それで、近いんだから向こうもこっちの存在を認識しているだろう、そう思って構わず行こうとしたんです。そしたらまったくよけないんで、直前になって私がよけようとしたら、なんか同じ方向によけてきて、思いっきりぶつかったので、むかつきながらも素直に謝りました」
そう鏡に向かって言う事で、サイコな自分を演出してみせたボクだったが、ふと気がつくと話しかけていたのは自分ではなく、鏡に映った友達自身の姿だった。だが、それを気にすることなく、僕は話した。
「それで店員に、『いや、私天然なんで』って天然ボケな自分を演出して見せたんですよ。そうしたら「あ、そうなんですかボクも天然です」という答えが返ってきて、すでにその答えが有る程度天然な感じだったので『こいつはやるな』と思って、友達になったんです」
そう鏡に向かって言う事でフレンドリーな自分を演出してみたボクだったが、ふと気がつくと話しかけていたのは鏡に映った友達自身ではなく、君だった。だが、それを気にすることなく、君は話した。
「で、そいつと友達になったんですけど、そいつが意外とサイコな一面を持っていたんですよ。人の過去の秘密を根掘り葉掘り探ろうとしたり、やたらと鏡にぶつかっていったりするんです。最初は天然な自分を演出して見せてるだけなのかと思ったんですが、結構本気なんじゃないか?と段々怪しくなってきましてね」
そう言う事で天然な自分を演出してみせてるだけの僕を本質的に突いた君だったが、君はふと鏡屋に入って、しばらくうろうろした。君は、カウンター越しに高価な手鏡をもってそれをさんざん褒めちぎった後、百円ショップに行って鏡を買った。
「まあ、せっかく友達になれたんだし、そんな一面には目をつぶることにしました。それで、ある日家に行ったんです。ドアを開けて家に入ったら、そいつ、三面鏡に顔を挟んで、正座してたんです。「こうしていると、三面鏡に顔を挟んで千の自分を見ていた幼い頃の日々を思い出すよ」とか言い始めました。で、僕がいる間ずっとそのままで僕と会話してたんで、流石に頭にきてそれ以来会ってないんです」
そういう事で、僕と会わなくなった君だったが、千の自分による自分ミリオンを味わいたかった僕は、特に後悔はしていなかった。君の顔に三面鏡に挟み込むだけの価値がなかったのが悪い、そう考えた僕は肉のない死体がいっぱい吊り下げられているあの「服屋」という危険な場所に足を運んだ。僕はそこでしばらくうろうろしていて、そこで写った鏡越しに、ボクにぶつかってきた。
「その後も何回か向こうからメールが送られてきたんですが、無視しました。それ以来鏡を見るとあいつを思い出すようになりましたけど。まあ、最初に会ったときから、違和感は感じてました。最初にあったのは服屋なんですけど、鏡に映った自分に謝ったりしてましたから」