今週のお題「バージョンアップ」

工具を渡すためには、人間ではなくクレーン車を使って渡さなければならない―そんな縛りの元に、工事が行われた。
「スタンダード・ラチェットハンドルのでかいやつをくれ」
マクダイルが、そうクレーン車の操縦士に言ってから三十分後、ようやく彼の元にスタンダード・ラチェットハンドルのでかいやつが渡された。
「遅すぎるんだよ!」と彼は怒鳴った。
「これでも、速い方なんですよ」と操縦士は言い返した。
「段々、何を建てようと工事してるのかわからなくなってきた」
と呟いたのはリーバイスだった。
そう、最初に考えられていた建設案では何百年かかるか分からない‥そんな考えが建設会社の社長の頭に浮かんだ。
渡された道具で、その場で思いついた工事を各々がやればいいではないか、と社長は判断した。こうしてそれぞれが適当に作業し始めた。マクダイルはスプリンクラー設置工事を始めたが、その隣では樹木の植栽のための地ごしらえ工事をやっていた。
だがその完成すらなかなかできず、工員たちは、工具が運ばれてくるまでの暇な時間に他の工事にも手を出し始めた。だが勿論悪意があって手を出したわけではない―ただ解釈が間違っていたのだ。「ガラス加工取付け工事」をしていたのだがそれを「自動ドアー取付け工事」だと解釈したマクダイルは本来ならガラスが収まるはずの溝に自動ドアをはめ込んでしまった。「このままでは収拾がつかない事態になる」と考えた建設会社社長は、「今回の建設計画は一度白紙に戻す」と言いかけたとき、歓声が上がるのを聞いた。
「配水施設工事」を行っていたジョナサンが温泉を掘り当てたのだ。
こうして建設計画は温泉施設建設に向けてバージョン・アップしたのだ(だが工事自体の縛りはそのままだったという)。

Joel Meyerowitz
”Construction Workers at Ground Zero