今週のお題「ゲーム」


「一つだけ湿っている‥」と呟いたのは『浪花のしゃちほこ』の異名をとるブランドンだった。彼は「チェス型ピアノ」の名手として名を馳せていた。
白い駒は白鍵、黒い駒は黒鍵に相当する。「チェス型ピアノ」は、駒を移動させることで、様々な音程の音を発生させることが出来るのだ。
彼は人一倍湿り気に敏感だった。「こんなに湿っていては、いい演奏が出来ない」と彼は言った。チューナーが呼ばれ、駒の湿り気を布でふき取った。「今度はこっちが湿っている」と彼は言った。それもチューナーがふき取ったが、湿り気は次々と別の駒に移っていった。「いいかげんにしろ!」と彼は怒鳴ってチェス盤をひっくり返した。「せっかくいい音が出る配置になっていたのに‥」と彼のチューナーはぼやいた。「待った、と言えば待ってくれるようにしてもらえないか」とチューナーは言った。これ以上チェス盤をひっくり返されてはたまらないからだ。
「俺の勝負には、「待った」なんて言葉は無いんだよ」と彼は言った。

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"Ray Charles and chess board"