そば屋に入ると、取調べの真っ最中だった。
「カツ丼を食べたいのなら、好きなだけ食わせてやるぞ」
あごに「勝海舟」と書かれた店主は、容疑者にそう言ってのけた。
「おまえに食うもんをおごってもらう様な無様なことはしねえよ」
容疑者は床につばをはいた。 
店主はそれを指ですくい、女将さんの顔につける。
「おっ、また長島がホームラン打ったな」
一人で冷やし中華を食っているおっさんは言った。
「ホームランを打つ選手は全部長島だと思ってるんだよ、あのひとは」
とぼくに耳打ちしてくれたのは海賊のような格好をしたおっさんだった。
「さあ、吐くんだ!」
と容疑者にカツ丼を突きつけ、店主は怒鳴った。
「だからいらないって言ってるだろ!」
と容疑者はカツ丼を手で弾いた。カツ丼は床にぶちまけられた。
店主は両手でそれを拾い、女将さんの頭にかける。
「おっ、また長島がホームラン打ったな」
一人で冷やし中華を食っているおっさんは言った。
「私は生き物が好きなんです!」
と突然言い始めたのは奥の方で座っていた客だった。
「どうしても吐かないっていうのか?」
と店主は凄んだ。
「大体、俺は今腹へってねえんだよ」
と容疑者は言った。
「私は生き物が好きなんです!」
突然奥の方の客が食べていたうな重をこっちに投げてきた。
それは冷やし中華を食っていたおっさんに当たった。おっさんは倒れ、動かなくなった。
「おっ、また長島がホームラン打ったな」
と今度は海賊のような格好をしたおっさんが言い始めた。
「ホームランを打つ選手は全部長島だと思ってるんだよ、あのひとは」
とぼくに耳打ちしてくれたのは女将さんだった。
「さあ、吐くんだ!」
と店主にカツ丼を突きつけ、容疑者は怒鳴った。
「だからいらないって言ってるだろ!」
と店主はカツ丼を手で弾いた。カツ丼は床にぶちまけられた。
ぼくは両手でそれを拾い、生き物が好きな客の頭にかける。
生き物が好きな客は生き物が好きなので、豚肉と触れ合えたことを、嬉しそうにしていた。