尻文字姫

「尻文字でしか人とコミュニケーションができなくなる」という呪いを西の魔女にかけられたとある国の姫は、それ以来一切人と会話をすることが無くなった。
周りの者たちは不思議に思ったが、「まあ、なんか無表情で人としゃべらない姫もそれはそれでアリじゃない?」という結論に達したという。
呪いがかけられて長い年月がたった後、隣国の王子が姫の国にやってきた。その容貌や物腰に姫は恋心を抱いたが、自分からは彼に対してなにもできなかった。
だが王子は姫に優しく接し、ある夜の晩餐会には姫と一緒にダンスを踊ったのだった。組むのは初めてであるのに、二人の息はぴったりあっていたという。
姫は、王子に自分にかけられた呪いを知ってもらいたい、と思うようになった。
そうしてとうとうある日王子を呼び出し、必死に尻を振ったのだった。
「私は西の魔女に呪いをかけられ、尻文字でしか人とコミュニケーションがとれなくなってしまったのです」
という事を伝えるに一時間はかかったという。
最初は突然尻を振り回し始めた姫を見て困惑していた王子も、最後には理解したのだった。
「そうだったのですか。それならば西の魔女に呪いを解く方法を聞きにいきましょう。なに、言わなくても吐かせる方法はいくらでもありますよ」
王子の目は突然鋭く光ったのだった。
西の魔女ははじめ呪いの解き方を言わなかったが、王子が「言わなくても吐かせる方法」を容赦なく使ったため、遂に教えることになったという。
「愛するもの同士が尻をくっつけあわせ、一部の狂いもなく『あいしてる』と尻文字で書けば呪いは解けるだろう」
二人は赤面しながらもそれを行った。
「あいしてる」と最後まで二人で尻を動かしたとき、きれいな高音が、王子の耳に入った。
「しゃ、しゃべれる!私しゃべれるわ!」
と姫が歓声をあげたのだった。
だが、王子が姫を振り向こうとしたとき、異変に気づいたのだった。
二人の尻はくっついて離れなくなっていたのだ。
「この老いぼれめが!」
王子は怒り狂い、西の魔女の首を締め上げた。
「ククク・・・しゃべれるようになっただろう?ぼうや。だがひきかえに、お前たちは一生そのままなのだよ。よかったじゃないか、いつでも一緒にいられるのだから」
そう言って魔女は絶命した。
「でも、これもそんなに悪くは無いわ」
と姫は言った。
王子は何も答えなかった。
こうして尻文字姫は王子と結婚(ケツ婚)し、末永く幸せに暮らしたという。