犬が

犬がふらついていた。スーパーマーケットの青い看板と、白い空の下の広大な駐車場。ガードレールの隅のアスファルトから、雑草が、人間のひろげた手のように生えていた。緑色だった。
「昔はこのあたりに」
ユダヤ人の司祭がかぶる様な黒い帽子の下、白い髭の真ん中に開いた穴から、ぼくのおじいちゃんは何かを言いかけた。
老人は後ろを振り返った。飛行機が二台、空に叫んでいた。
「やつらに話を聞かれるとまずい」
皺でくちゃくちゃになった、やわらかい亀裂の底から覗く青い目が、ぼくを見た。
「おじいちゃん、あれは何色に見える?」
「青に見えるな」
「じゃああれは?」
「緑に見えるな」
「おじいちゃんは色盲ですね」
「そういうお前は目が見えないじゃないか!」